
私にとって朝早く起きて散歩に出かけるのは、なかなかハードルが高い。
なので、仕事を終えて晩ご飯を作って食べて、お茶をいただいてから着替えて出かける。
昼間とは別の世界が広がる夜の散歩道は、私にとってはひとつの夢の世界。現実の世界が暗くなっただけではなくて、まったく別のシステムで動いている別の世界だと認識している。
昨今、メタバースという仮想空間という言葉が広まり出した。どちらかというと私にとっての夜の散歩はそれに近い。
そこでしか出会わない人、仕事とは違う服装で、違う帽子を被り、違う靴を履いて、昼間とは違うキャラクラーで動き回る。しかも、風を感じることができて、湿度もあり、余計なセンサーなどをつけずに五感を満喫できる。

現実を感じるのは、ホテルの客室。ひとつひとつ光る客室の窓の中には、現実に動く人間がいる。そのそれぞれに「旅行にきた」という日常とは違う非現実的な時間がある。その違和感がなんとも楽しい。
今だけのイルミネーションも、仮想空間でよくあるお祭りみたいでいい。
ひとりになって、脳へのノイズを減らし、頭の中を整理していく。

健康のために歩いているわけではなく、歩数を稼ぐだけでもない。ポケモン探しでもなく、ただ夜道をさまよう。
違い世界を漂っているだけで、昼間のキャラクターを脱ぎ捨てて、また別のお気楽なキャラクターで歩く。

12月に入って気温が下がると、散歩する人の数も減ってくる。ここでしか逢うことがない常連さんとすれ違い「今日も元気に頑張っているな」と確認する。一度も挨拶もしたことがないが、ほぼ毎日顔を合わせる面々。
昼の仕事中の自分、夜の散歩の自分、家族の一員としての自分、旧友の仲間のひとり、山仲間の相棒、妻にとっての夫、ご近所のおじさんとしての自分など、様々な着ぐるみを着る。
どれが一番窮屈で、どれが一番動きやすくて、どれが一番気楽なのかも知っている。
少しずつ窮屈なものは着る時間を少なくして、お気に入りのやつを着る時間を多くしたい。
好きな時間だけでヒマが埋められたら、それが一番理想なんだけど、
徐々にそこに近づけていこうと思っている。