
「キッチン」は読んだはずなのに、キッチンを含む三編の短編小説のうちの最後の一つが記憶から消えていた。
やはり読んでいなかったかもしれない。
でも、キッチンを読んだのはもう思い出せないくらい昔のことだし、その頃は大事な人を亡ったりしてもいなかった。
吉本ばなな氏の文章に触れて懐かしさを覚えた。そうそう、こんな感じ。嬉しい気持ちも湧いてきた。すぐにその世界に入ることができて、グイグイと引き寄せられる。
フィクションなのに、現実離れした話なのに、それがノンフィクションにも思えてしまうのが不思議だ。
どうして今更この古い小説を読もうと思ったかというと、大好きな小松菜奈ちゃん主演で映画化されるからだ。しかも、その本を妻がまだ持っていて「はい、読む?」と渡してくれたから。
老眼鏡をかけて読みはじめたら、もう夢中になって一気に1時間ほどで読み終えた。
最後はやっぱり泣いてしまった。亡った人をどうしても思い出してしまう。さよならも言えずにいってしまった大切な人。
主人公ほどもう若くはないのに、こういう気持ちは共通なのだろうか。「悲しい」でも「寂しい」でも「もう一度会いたい」でもない。
ただ「さようなら、ありがとう」と伝えたいだけ。
生きているうちに顔を見て言えないのはわかっている。
死んでからしか言えないのに、死んでしまってから言えなかったことを後悔しても仕方ないのに。
なんなんだろうね。
元々涙脆いのが更に数段症状を悪化させたのは、間違いなく飼い犬とあの人を亡くしたせい。
そして、この小説もまたその要因の一つになりそう。
さて、どんな風に映画化されるのだろうか。2021年9月10日封切り。今から楽しみだ。
