
1969年5月に東京大学駒場キャンパスで行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘との伝説の討論会の様子を軸に、三島の生き様を映したドキュメンタリー。1968年に大学の不正運営などに異を唱えた学生が団結し、全国的な盛り上がりを見せた学生運動。中でももっとも武闘派とうたわれた東大全共闘をはじめとする1000人を超える学生が集まる討論会が、69年に行われた。文学者・三島由紀夫は警視庁の警護の申し出を断り、単身で討論会に臨み、2時間半にわたり学生たちと議論を戦わせた。伝説とも言われる「三島由紀夫 VS 東大全共闘」のフィルム原盤をリストアした映像を中心に当時の関係者や現代の識者たちの証言とともに構成し、討論会の全貌、そして三島の人物像を検証していく。ナビゲーターを三島の小説「豊饒の海」の舞台版にも出演した東出昌大が務める。監督は「森山中教習所」「ヒーローマニア 生活」の豊島圭介。
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「学生運動」「東大全共闘」「革マル派」「ゲバ棒」「赤軍派」「あさま山荘事件」「内ゲバ」「安保反対」など、単語はよくよく知っていてもそれについて詳しく調べたこともなかった。
三島由紀夫氏の作品もいくつか読んだことはあっても、その奥深いところまで理解するのはその時の私には無理だった。時々テレビで放映される「三島由紀夫の演説風景(三島事件)」の映像は何度も目にしたが、実際に誰に向かってどんなことを訴えて、何をしようとしたのかも知らなかった。それこそ、中学生の頃は、右翼の人が頭がおかしくなって言いたいこと言って自殺しちゃったくらいに思っていた。
この映画は最初の解説にあるように、「1969年5月に東京大学駒場キャンパスで行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘との伝説の討論会の様子」を録画した映像に、それをわかりやすく解説する映像と、その場所に学生として参加した人へのインタビュー及び作家平野啓一郎へのインタビューなどで構成されている。
討論の中に出てくる用語はわからないものが多くて、それらをわかりやすく説明してくれているので、初めてこの世界に足を踏み入れる人でも理解できるようになっている。
一番の見どころは「芥正彦」が登場してからのやり取りだろう。
最初はお互いに何について話しているのかさっぱりわからなかった。
「空間」とか「自由」とか「エロティシズム」とか「オブジェ」やら、さまざまな観念論が飛び交い、どちらが左翼でどちらが右翼なのかもわからなくなってくる。
1000人もの全共闘の学生に対し、一人で壇上に赴く三島由紀夫は、意外なほどに優しかった。
学生たちの意見をしっかりと聞き、受け入れるところ受け入れて、正しいと思うところは認め、決して相手を煽るような言動はせず、揚げ足も取らず常に冷静に受け答えしていた。この姿勢はとても素晴らしいと思った。
本人もタバコを吸ってどうにか冷静を装っていると言っているが、1000人に囲まれ一人でそれに対峙するには相当の覚悟がいるだろうと想像する。みんな頭の切れる東大生であり、小難しい観念論や揚げ足取りや挑発を仕掛けてくるのだが、それに対しても毅然とした態度でしかも優しく意地悪くなく答えているところに好感を持った。
三島由紀夫の最期も、あれほど純粋な気持ちで日本を愛するが故の行動を取った人を他に知らない。「頭がおかしくなったバカなやつだ」と切り捨ててしまうことはどうしてもできない。
そして、最後に「全共闘」と「三島由紀夫」も、共に敵だと思っていたのは、「あやふやで猥褻な日本国」であったということだ。右と左の違いは一体なんなのだろう?
色々と考えさせられたというよりも、その熱量に圧倒された映画だった。