
午前8時15分に始まる映画のために、
休日の朝、午前6時半に起きる。
寒の戻りというのか? 街路樹を通り抜ける朝のビル風は、
鋭く冷たかった。
ペアシートに体を沈ませて、脱いだ厚手のコートを膝掛けにした。
余命モノ、難病モノ、泣かせる系、小松菜奈、坂口健太郎、
脚本:岡田惠和、そして、音楽:RADWIMPS。
そんな強烈なタグの付いた映画。
期待通りのいい映画だった。
治療法のない難病で、余命10年。そんな主人公の女の子「茉莉(まつり)」:小松菜奈。
たまたま参加した同窓会で、すでに人生に未練のない同級生の「和人(坂口健太郎)」。
そんな二人がいつしかお互い支え合い、愛し合うことになっていく。
これだけで「あぁ〜なるほどね。そっち系の映画ね。」ってイメージが作り上げられると思うし、
実際にその通りかも知れない。
近頃、こういう難病モノでも恋愛モノでも、
自分の恋愛経験と重ねるというよりも、その本人たちの親の立場になっていることに気づく。
さらには祖父母目線にさえなっている。
主人公の茉莉(まつり)の父親を演じる松重豊の気持ちを探ってしまう。
茉莉(小松菜奈)と母親(原日出子)と姉(黒木華)との会話の中で、
そのテンポについていけない父親と、たまに口を開けば「そんなことはわかってる!」って言われちゃう父親。
黙々と自分のやるべきことをやり、しっかり娘を見守り心配している姿に心を打たれる。
茉莉の彼氏:和人(坂口健太郎)に対しても、影でしっかりと「娘を受け止めてやってください」とお願いしている。
自分ではなかなかうまくできないのがわかっているのだ。
出来ることなら、幼い頃のように自分に抱きついてきてわんわん泣きじゃくって欲しい。
でもすでに父と娘はそういう関係ではないのだ。
「大丈夫か?」「遅くなるなよ」「具合悪くなったらすぐ連絡しなさい」
そんなボソッと呟くセリフが、
「わかってる!うるさいなぁ。」と言われてしまう言葉が、
父親からの普段言えない「愛してるよ」「お前のことが大好きだ」「いつもお前のことを心配している」なのだ。
エンドロールの間にどうにか涙を拭いて、ホールを出たあと、
「トイレ」と一言。
「いってらっしゃい」と一言。
いつもなら映画の後は決まってトンカツなのだが、
今日はまだ午前10時30分。お店もまだ開店していない。
帰宅して大鍋にお湯を沸かして、スパゲティーを茹でる。

たらことキノコの和風スパゲティー。
キャベツとにんじんとロースハムのサラダ。
「いい映画だったね」
「なんだか知っている人ばっかりだったよね。三浦透子ちゃんもホントよく見るようになった。」
「山田裕貴くんの恋ってなんだかんだで成就したことないんじゃない?」
「そうかなぁ? それより奈緒ちゃんって『あなたの番です』のイメージが強すぎてさぁ。」
「俺はそれ見てないから、『半分、青い』のナオちゃんのイメージかなぁ」
「坂口君ってやっぱいいよねぇ」
「小松菜奈ちゃんもどんどんうまくなっていくし、もうホントかわいい!」
そんないつもの夫婦の会話が、
かけがえのない時間なのだと思わされる。
二人で歩いて映画館まで行く時間、
上映中となりで啜り泣くおと、
トイレを待つ時間、
意外と会話なく歩く帰り道、
お湯が沸くまでにキノコをほぐして醤油で煮る時間、
たらことスパゲティーを一緒に混ぜ合わせる時間、
「それじゃいただきま〜す!」
映画で共感したことを喋る時間。
そんな瞬間、瞬間が愛おしくなるような映画だった。
いい映画に出会えた喜び。
そうか、今日は母の命日だった。
「いつまでも仲良くね」と言われた気がした。