
名匠・山田洋次の82作目となる監督作で、第143回直木賞を受賞した中島京子の小説を映画化。昭和11年、田舎から出てきた純真な娘・布宮タキは、東京郊外に建つモダンな赤い三角屋根の小さな家で女中として働き始める。家の主人で玩具会社に勤める平井雅樹、その妻・時子、2人の5歳になる息子の恭一とともに穏やかな日々を送っていたある日、雅樹の部下で板倉正治という青年が現れ、時子の心が板倉へと傾いていく。それから60数年後、晩年のタキが大学ノートにつづった自叙伝を読んだタキの親類・荒井健史は、それまで秘められていた真実を知る。時子役を松たか子、晩年のタキを倍賞千恵子が演じた。若き日のタキに扮した黒木華は、第64回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(女優賞)に輝いた。国内でも第38回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。
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妻夫木聡が演じる大学生の健史は、一人暮らしをしている親戚のおばあちゃんタキ(倍賞千恵子)の家に時々立ち寄っては、ご飯を食べさせてもらったりたわいも無い話をして様子を伺ってくれている。そんなタキが、戦前の若い時に女中をしていた家の出来事を大学ノートに綴っていた。その内容に健史は興味を持って、もっと書くようにと勧める。
その話が進んでいくうちに、雇い主の奥さん時子(松たか子)の悲しい恋物語に巻き込まれる様子が描かれていた。その恋の相手はイタクラショウジという時子の夫の会社の部下。やがてイタクラにも赤紙が届き・・・。
若きタキを演じた黒木華の演技が秀逸。そして、倍賞千恵子もお見事の一言。戦争中の昔の話なのだが、誰しも歴史があり、ドラマや映画以上の劇的なストーリーがあるものだ。
戦前の日本は今以上におしゃれでありセンスが良いように思う。大正時代はもっとそうかもしれない。それが映画の中のあちこちに描かれているのがいい。
明治生まれの祖父、大正生まれの義父もおしゃれだった。ハットを被り、ステッキを持ち、靴も磨かれ、ダブルのスーツを着こなし、身に着ける小物もこだわっていた。そして洋裁を生業にしていた母も、いつもおしゃれだった。戦後、なかなかオシャレまでする余裕はなかったと思うが、その中でも「こうするとちょっとおしゃれでしょ」とたくさんの工夫を教えてくれた。「この色とこの色じゃおかしいでしょ。この色に合わせるならこっちよ」と生地を重ねて見せてくれたり、その生地の材質の良し悪し、仕立ての良し悪しも見よう見まねで学んだように思う。和服はほぼ着なかったが、時代に合わせて最先端を走っていたと思う。
映画でも和装から徐々に洋装になっていく。その服装の移り変わりを見ていくだけでも楽しい。2時間ちょっとある映画だったが、ずっと楽しく鑑賞できた。そして、最後はホロリとさせられた。