
直木賞、本屋大賞受賞作家・辻村深月のヒューマンミステリー小説で、テレビドラマ化もされた「朝が来る」を、「あん」「光」の河瀬直美監督のメガホンで映画化。栗原清和と佐都子の夫婦は一度は子どもを持つことを諦めるが、特別養子縁組により男の子を迎え入れる。朝斗と名付けられた男の子との幸せな生活がスタートしてから6年後、朝斗の産みの母親「片倉ひかり」を名乗る女性から「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話が突然かかってくる。当時14歳で出産した子を、清和と佐都子のもとへ養子に出すことになったひかりは、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心やさしい少女だった。しかし、訪ねて来たその若い女からは、6年前のひかりの面影をまったく感じることができず……。栗原佐都子役を永作博美、栗原清和役を井浦新、片倉ひかり役を蒔田彩珠、栗原夫婦とひかりを引き合わせる浅見静恵役を浅田美代子がそれぞれ演じる。新型コロナウイルスの影響で通常開催が見送られた、2020年・第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に選出。
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ミステリーの要素もあるとは思わなかった。河瀬直美監督の作品は好きでずっと観てきた。今回も期待を裏切らない作品。
初期作品、「萌の朱雀」や「殯の森」の初期の尾野真千子を彷彿させるのが、片倉ひかりを演じる蒔田彩珠。現在、NHK朝ドラ「おかえりモネ」で主人公の妹役を演じているが、この女優の輝きが引き立つ。それを引き立たせているのは、永作博美と中島ひろ子。この二人の女優さんの演技は秀逸だった。
それと浅田美代子もいつもは少し嫌味ったらしい役や意地悪の役が多いが、今回は複雑な心境の役をうまく演じていたように思う。
ミステリー要素を書くとネタバレになってしまうが、ちょっと意外な展開だった。里子を育てる夫婦の苦悩を描いたドラマと思い込んでいたが、それもあるが後半はまた別のところにスポットを当ててきた。それが少し意外であり新鮮だった。
不妊治療の苦悩で一時諦めていたが、特別養子縁組という里子制度を利用しての子育て。そこに突然思いもよらぬ人が訪れる。テンポよく迷うことなく時間を戻したり、進めたりして、それぞれの心情を映し出す化粧や表情・服装も変化させてうまく撮られている。
やや重い雰囲気はあるが、いい映画を観せてもらったという感じが味わえる映画だった。