
松田優作の出身地・山口県で開催されている周南映画祭で、2012年に新設された脚本賞「松田優作賞」第1回グランプリを受賞した足立紳の脚本を、「イン・ザ・ヒーロー」の武正晴監督のメガホンで映画化。不器用でどん底の生活を送っていた女性が、ボクシングを通して変化していく姿を描いた。実家でひきこもり生活を送る32歳の一子は、離婚して出戻ってきた妹とケンカしてしまい、やけになって一人暮らしを始める。100円ショップで深夜勤務の職にありついた一子は、その帰り道に通るボクシングジムで寡黙に練習を続ける中年ボクサーの狩野と出会い、恋をする。しかし幸せも長くは続かず、そんな日々の中で一子は自らもボクシングを始める。14年・第27回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞。米アカデミー賞の外国語映画賞日本代表作品に選出されるなど高い評価を受け、第39回日本アカデミー賞では最優秀主演女優賞、最優秀脚本賞を受賞。
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心が締め付けられる映画だった。
元々が不器用で愛想がなくて何をやってもダメな引きこもりの32歳の女性。自宅の弁当屋を手伝うわけでもなく、自堕落な生活。髪の毛はボサボサ、腹の周りは脂肪がついてたるんでいる。
そんな生活をしているところへ、妹が子連れ離婚して出戻ってくる。妹は家業の弁当屋を手伝うが、姉の方は相変わらずの状態。働かない姉に妹がキレて毎日喧嘩になる。
耐えかねた姉の方が勢いで家を出ることになった。どうにか見つけた100円ショップの深夜バイト。
そのバイトの帰り道にはボクシングジムがあり、そのジムで寡黙に練習する中年ボクサーに恋をする。
その男もボクサーの夢破れて仕事を探すがなかなかうまくいかず、恋も儚く終わってしまう。そこから主人公がなぜかボクシングを始めて、みるみると成長していく。
最初はパンチひとつ出来なかった。縄跳びも出来ず、走ればすぐに息が切れた。それが徐々にパンチのキレがまし、ステップも軽くなり、体つきも変わっていった。
どうにかプロ試験もギリギリ通過し、練習にも加速度が増した。
顔つきも変わり、まるで別人のようになった彼女にいよいよ初めての試合の日が来る。
今まで人生に負け続けて、底辺を漂ってきた。そんな彼女が努力の結果に鍛え上げられた肉体と精神力でその試合に挑む。その変容振りが見事なのだ。
映画の中盤までのだらしない生活。姿勢から言動から全てダメダメなのが、ボクシングで鍛えていくに従って、姿勢が変わり、顔つきが変わり、喋る言葉のハリがまったく違う。
それを安藤サクラが見事に演じている。もうただそれだけで十分な映画だ。
途中の精悍になっていく時は、映画「ロッキー」を見ているような感じだが、ラストはなんとも日本映画らしい切ない映画になっている。私はどちらかというと、こういう映画の方が好きだ。
素晴らしい映画だった。