高校時代。
冬の猛烈な季節風の下、40分間の自転車通学。
追い風の時は、帆をあげたい気分だったが、
向かい風の時は、ペダルにのせた足の先に全体重をかけても、
1mmも前へ進まなかったことを覚えている
バンドをやっている時で、
背中にギターを背負って、後ろの荷台にはギターアンプを括り付けて走ったこともあった。
荒れた海に放り出された帆掛舟みたいなものだった。
向かい風の時は、その風を恨めしく思ったものだ。

しかし、いざその風が、
穏やかな追い風の時は、その風の存在さえ気付かないことも多い。
今日のペダルが軽いのは、自分の実力だと思っていた。
思い返せば、
今までの人生でもそんな追い風に気づかずに、
自分の実力だと思っていたことがあった。
今になってわかることだけど、
あの風はきっと気まぐれなものだったのだろうと思う。
それを自分の力と思ってしまった。
向かい風は穏やかでも気がつく。
でも、穏やかな追い風は気付かないものだ。
すれ違いざまにふと顔に当たる向かい風。
そして、通り過ぎるとあとからくる香りと追い風。
人と会う一瞬にも、
短いドラマがある。