車がないと生活できない場所から、車がなくても生活できる場所に引っ越してきて、早いもので四半世紀ほど経った。
今は電車のありがたみを痛感する。
「目も見えなくなってきたし、近いうちに車も要らなくなるかな?」と妻が言う。
「う〜ん、そうかな」とあやふやな返事。
車がすべての移動手段と思ってきた自分が20数年経ってもまだ、気持ちの上で車を手放せないのはなぜだろうって思う。
以前は、ちょっとの距離なのに車で移動していた。
歩いて10分の距離なら、今なら迷わず歩いていくのだが、以前は当たり前のように車に乗った。
「駅から徒歩15分」って書いてあったら、「それじゃ車で行くしかない」と思った。
「駅からバスで30分」なんて書いてあったら、電車でいくという選択肢はなかった。

でも電車が便利な街は、車の移動が不便である。
駐車場がない、駐車料金がかかる、道が狭い、駐車場が狭いから空いている場所を探すのに苦労する、駐車場から目的地まで歩く場合も多い、歩くことが前提なのでそれなりの準備がいる、冬はマフラーや手袋は必需品、帰りに荷物が多いと持ちきれないので買い物を制限するなどなど、枚挙にいとまがない。
一方、車が便利なところは、すぐに無料で車が停められて、ほぼ歩くことなくお店などに入ることが出来る。帰りの荷物の多さを気にすることもないし、買ったものはそのままポイッと車内に放り込めばいい、長時間歩くという前提がないので素早く家から出られる。それこそスマホと上着だけ持ってサンダルで外出も可能だ。電車の時間を気にせず、移動時間に人目を気にすることがないし、時間的に自由がきくなどメリットも大きい。
どちらが良いのかというと、判断が難しい。慣れたらどちらでも適応できる。
電車でよかったと思うのは、出先で気軽に酒が飲めることだろうか。
それと、帰りに運転しなくていいこと、電車で寝られること、電車に乗りさえすれば家の近くまで運んでくれること、必然的によく歩くようになったこと。面倒だと思っていた電車へ「乗る楽しみ」がわかったこと。
どっちが便利か?と言われたら、どっちも便利。車社会の人は、絶対車の方が便利というだろうし、電車社会の人は電車の方が良いというかもしれない。どちらも経験すると、どちらも便利。
電車が隅々まで網羅している場所の人に、75歳くらいになった免許を返納するべきと簡単に言って欲しくないというのはある。
誰にも頼らず、自分で目的地まで行くことが出来るというのは大きい。家族に送ってもらったり、タクシーで行けばいいじゃないかというのは、ちょっと違う。なんらかの理由で自分の足でトイレに行けなくなった時の気持ちを考えてみるとわかるかもしれない。
これから自分はどんな場所にどういう方法で移動するのだろうか?
安全で気持ちよく、自分ひとりで気楽に移動する手段があることを祈るばかりだ。